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大阪地方裁判所 昭和42年(わ)293号 判決 1973年3月26日

本店所在地

東大阪市森河内本通一丁目一〇番地

大阪糧穀株式会社

代表者代表取締役

吉田花子

法人税法違反被告事件

出席検察官

田辺信好

弁護人

大槻龍馬、葛井重雄

主文

被告人を罰金一〇万円に処する。

本件公訴事実中、昭和三七年一二月一日から昭和三八年一一月三〇日までの事業年度における法人税逋脱の点(第一事実)および昭和三八年一二月一日から昭和三九年一一月三〇日までの事業年度における法人税逋脱の点(第二事実)につき同被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人大阪糧穀株式会社は、東大阪市(もと布施市)森河内本通一丁目一〇番地に本店を置き、米麦類の売買等を営むものであるが、被告人会社の代表取締役として、その業務を統括していた吉田庄次郎が被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告人会社の昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業年度において、その所得金額が五、三五五、四五九円、これに対する法人税額が一、八〇一、四九〇円であるにもかかわらず、公表経理上、仕入単価の水増、架空運賃の計上等の不正の行為により、右所得金額中二、四二三、〇八八円を秘匿したうえ、昭和四一年一月三一日、布施市布施税務署において、同署長に対し、右事業年度分の所得額が二、九三二、三七一円、これに対する法人税額が九〇九、〇一〇円である旨過少に虚偽記載した法人税確定申告書を提出し、よつて同年度分の法人税八九二、四八〇円を免れたものである。

(証拠)

一、布施税務署長吉田好彰認証の昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業年度分法人税確定申告書写

一、被告人大阪糧穀株式会社の法人登記簿謄本および定款

一、吉田庄次郎作成の陳情書

一、収税官吏の瀬川弥作、湊弥五郎に対する各質問てん末書

一、次の収税官吏作成の各検査てん末書

吉田恵一(二通)、太田武次郎、白鹿弘、片山啓一、藪一雄、仲谷幸三、大黒隆幸

一、次の者作成の各確認書

木下義美(二通)、野々口正一、早川瀬一、永松智、塩江弘二郎(五通)、武田忠男(二通)、小池賢次、金森多計士、高橋敏彦、佐々木元治、田坂きよ子

一、早川瀬一作成の回答書

一、瀬川弥作作成の上申書

一、昭和四八年一月一九日付大槻弁護人作成の上申書(メモ綴添付)

一、日本勧業銀行今里支店作成の昭和四二年九月一三日付証明書

一、証人森田琢磨の当公判廷における供述(第二六回公判)

一、布施税務署長作成の昭和四四年二月四日付回答書(別紙<1>(2)添付)

一、吉田庄次郎作成の吉田花子収入一覧表

一、吉田庄次郎の昭和四〇年分所得税確定申告書写

一、第一六、一七、一八回各公判調書中の被告人吉田庄次郎の供述部分

一、吉田庄次郎の当公判廷における供述(第三二回公判)

一、収税官吏の吉田庄次郎に対する各質問てん末書

一、吉田庄次郎の検察官に対する各供述調書

一、領置してある法人税申告書綴一綴(昭和四二年押第六〇六号の五)、個人財産明細表二通(同号の六)、計算書類一綴(同号の七)、使用済小切手一一通(同号の九)、使用済小切手二通、同手形二二通(同号の一〇)、借用証二通(同号の一二、一三)、賃貸借契約証書(同号の一四)、南尾運輸倉庫関係書類綴一綴(同号の一六)、個人収支ノート一冊(同号の一七)、預り証(白封筒入)二通(同号の一八)、支店関係計算書綴(同号の二〇)なお、認定の明細は別紙のとおりである。

(法令の適用)

被告人大阪糧穀株式会社の判示行為は法人税法一五九条一項、一六四条一項に該当するので、所定罰金額の範囲内で被告人を罰金一〇万円に処する。

(一部無罪の理由)

本件公訴事実中、昭和三七年一二月一日から昭和三八年一一月三〇日までの事業年度(以下第一期と略称する)における法人税逋脱の点(第一事実)および昭和三八年一二月一日から昭和三九年一一月三〇日までの事業年度(以下第二期と略称する)における法人税逋脱の点(第二事実)は、

「第一、被告人大阪糧穀株式会社は、昭和三七年一二月一日から昭和三八年一一月三〇日までの事業年度において、その所得金額が一二、九〇七、四三五円、これに対する法人税額が四、七七四、六八〇円であるのに、公表経理上、仕入価格の水増、架空運賃の計上等の不正の行為により、右所得金額中一一、七五一、九八一円を秘匿した上、昭和三九年一月三一日、布施市布施税務署において、同署長に対し、右事業年度分の所得金額が一、一五五、四五四円、これに対する法人税額が三五三、七四〇円である旨過少に虚偽記載した法人税確定申告書を提出し、よつて同年度分の法人税四、四二〇、九四〇円を免れ、

第二、同被告人会社の昭和三八年一二月一日から昭和三九年一一月三〇日までの事業年度において、その所得金額が一八、〇二〇、六七二円、これに対する法人税額が六、六九七、八二〇円であるのに、前同様の不正の行為により、右所得金額中一六、八四四、三〇四円を秘匿した上、昭和四〇年二月一日、前記布施税務署において、同署長に対し、右事業年度分の所得金額が一、一七六、三六八円、これに対する法人税額が三三八、一七〇円である旨過少に虚偽記載した法人税確定申告書を提出し、よつて同年度分の法人税六、三五九、六五〇円を免れ

たものである。」

というのである。

本件は、財産増減法によつて年間所得を確定しようとするものであるが、検察官主張の昭和三七年一一月三〇日現在および昭和三八年一一月三〇日現在の各商品あり高については「昭和三九年一一月三〇日現在の商品あり高と同額であつた」旨の収税官吏の吉田庄次郎に対する昭和四一年一〇月一七日付質問てん末書および同人の検察官に対する昭和四二年一月二五日付供述調書中の同人の結論的供述にもとづいているだけで、この供述を裏付けるにたる証拠は他に存在しない。その間の事情は、右質問てん末書、供述調書および証人森田琢磨の当公判廷における供述を綜合すると、各期首の在庫数量につき資料収集やその裏付調査等の査察が充分できないうちに公訴時効が切迫したため、被告人会社社長たる吉田庄次郎に右のような供述をさせて証拠上形をととのえ、起訴したものとうかがうことができる。

しかし、在庫総数量をただ単に「倉庫の収容能力が同じであり、各期末の時期が同じであつたから」(前記質問てん末書および供述調書)というだけの理由で前期、前々期とも在庫数量が同金額であつたと推論することは、いかに帳簿等の保存が極めて不完全な脱税事犯とはいえ乱暴な証拠のつくりかたというほかない。

検察官は、第二七回公判調書の森田琢磨証言記載の末尾に添付してある「大阪糧穀株式会社にかかる各期末商品在高算定表(数量計算によるたな卸数量等の検討表)」によれば、売上高、仕入高および預金高がほぼ同率で漸増しているので、各期首期末の商品あり高は期を逐つて漸増の傾向を辿るか、同程度で横ばい傾向を辿つている筈であると推論して、これを前記吉田供述に符合するものと主張するが、右算定表自体が不完全な資料にもとづいて作成されたものであり、しかも、商品あり高の漸増ないし横ばい傾向の推論に対しては、被告人会社の信用の増加、貨物輸送事情の改善、食糧管理法違反取締の緩和傾向等の取引情況の変化により買だめの必要性が逐次減少してきた事実の存在(第二〇回公判調書中吉田庄次郎の供述部分、弁護人の主張)も無視できないので、右算定表は証拠価値に乏しい。

そして他方、弁護人は第一期、第二期とも各期首の商品あり高を具体的に主張し(昭和四八年三月二二日付上申書にいたるまでの訂正はあるが)、一応の立証をなしている。その証拠中には、数量的にあいまいなものもあるけれども、ゆうに前記吉田庄次郎の質問てん末書、検察官調書中の供述部分の信憑性を左右するに足る。

してみると、第一期、第二期各期首の財産中商品あり高を認めるに足る証拠なく、したがつてその期の所得額を確定できない。

よつて、その余の争点を判断するまでもなく、公訴事実第一、第二の各法人税逋脱の点は犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法三三六条により、右各公訴事実につき被告人に対し無罪の言渡をする。

(裁判官 梶田英雄)

右は謄本である。

昭和四八年四月六日

大阪地方裁判所第三六刑事部

裁判所書記官 陶山美知彦

脱税額計算書

大阪糧穀(株)

昭39.12.1

昭40.11.30

<省略>

税額計算書

大阪糧穀(株)

<省略>

別口貸借対照表

<省略>

個人分資産の期首期末の在高および期中増減額

<省略>

39.11.30 末の合計は前期、前々期の個人収入金未確定のため集計できず。

個人分収入金明細書

<省略>

個人分支出明細書

<省略>

簿外商品明細書

<省略>

差額 (1,516,665)

弁護人主張 宮城商店 2口 10,149,305 1,969,075

検察官主張 京都生菓 岡貞夫 -8,180,230 +109,290

1,969,075 2,078,365

-561,700

弁護人主張 日通宇都宮支店 4,322,492 1,516,665

検察官主張 〃 -4,213,202

109,290

検察官主張 長谷川商店 3,990,600

弁護人主張 〃 -3,428,900

561,700

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